「火花」又吉直樹 感想

読みたいなと思ってはいたが、読んでいる途中に又吉の顔が浮かんできそうで避けていた。Kindle本のセールでポイントが還元されたので、ちょうどいいと思った。

最初の70パーセントくらいは正直読むのがつらかった。
言い回しがごちゃっとしていて、登場人物の誰にも感情移入できなかった。
熱海の花火と漫才の情景はなかなか美しかったが、時おり交わされる芸人論みたいなものにも興味がもてなかった。

「あ、そういうことか」とわかった気がしてきたのが、後半の30パーセントからで、神谷は主人公の前ではかっこつけてるみたいな話を神谷の相方がしていたところからだと思う。
それまで、ただただ無茶苦茶な人である神谷に共感できたからだ。

かっこつけるとかではなくて、いっしょにいると一番かっこいい自分でいられる人っているよなぁと思った。僕にもそういう人がいる。
無理して演じているわけではなくて、その人の前では自然と理想の自分でいられるというか。
その人といっしょにいるのが心地いいという以上に、その人といっしょにいるときの自分が心地いいというか。
そこから神谷にも主人公にも共感というか、自分に当てはめて読むことができるようになった。

神谷の生き方もなんとなくわかる。
例えば、会社に向かう電車で「このまま終電まで行ったらどうなるだろうか」とか
ふっと頭に浮かんでは、でも会社に行かなかったら怒られるなとか考えて、結局行動にはしないような無意味な事。
そういう事を全部やっちゃうのが、神谷の生き方なのかなと思う。

僕も含めて、おそらく大多数の人はお金とか生活とか常識とか他人に迷惑をかけるとか考えて、行動には移さないだろう。
多分、そういう理性も生きていくには必要なんだろう。
でもどこかで何か逃げているような後ろめたさもある。
僕には勇気がないだけなのだろうか、と。

感性だけで生きることができたらなと思う。
でも感性だけでは生きていけない。
でも10回に1回くらいは感性で生きてもいいじゃないかと思う。